高性能なApple Siliconの開発は過去数十年の積み重ねの成果

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Apple M1

AppleがMacBookで2020年に導入したSoC(System on Chip)のApple Siliconシリーズは、その前まで使っていたIntelのCoreシリーズCPU x86に比べると低消費電力で高性能ということで高い評価を得ています。
半導体の設計は年単位の時間がかかり、製造も時間がかかる物で、実際に製品がリリースされる何年も前から準備していないと出来る事ではありません。
それではAppleはどのくらい前から準備していたのでしょうか。

コンピュータ関連は採用する半導体が性能の決め手となります。
従来は専業メーカーが開発製造する半導体から選んで載せるしかありませんでした。これが設計から製造までを自社で行う垂直統合型(IDM)型の半導体メーカーです。その後、製造だけに特化したファウンドリビジネスが2000年代くらいから普及し、半導体の設計のみを行う会社も一般的になり、製造はファウンドリに任せる形が普及しています。

Appleが初めてこの形で自社開発の半導体をリリースしたのが、iPhone向けのApple A4で2010年のことです。
この2年前の2008年には、DEC AlphaやStrongARMの開発者Daniel W. Dobberpuhl氏が設立した半導体企業のP.A. Semiを買収しています。Apple自体はそのだいぶ前から実際に半導体の開発をしていたと思われますが、すでに数十年の開発実績がある半導体企業を買収したことで、社内でもそれが加速し、本格化したのが2008年頃と言えるでしょう。

SoC自体はApple A4からAppleが開発しましたが、マイクロアーキテクチャにはArmが開発したARM Cortexを採用しています。
これでは他社もおなじCortexを採用した場合、性能面での差別化が出来ません。そこでAppleが目指すのはインストラクションセット(instruction set)にはARMを使うが、それをCPUにするマイクロアーキテクチャは自社開発するという方向です。
P.A. Semiなど2008年頃から関連企業を買収するなど半導体の開発力を強化し、2012年にリリースしたApple A6でそれを実現しました。
その結果、Apple A4、Apple A5まではARM Cortexを採用していましたが、3世代目のリリースとなるApple A6では、Appleが開発したマイクロアーキテクチャのSwiftが採用されました。その後のSoCではApple開発の新しいマイクロアーキテクチャが採用されています。

SoCの開発と言っても、なにをどこまで設計するかによってかかる時間や難易度は異なります。
Appleの用にマイクロアーキテクチャから開発する場合の難易度は、並大抵の物ではありません。詳細は公開されていないのでわかりませんが、2008年頃から自社開発のマイクロアーキテクチャの開発を本格化したとして、4年後の2012年にようやくリリースできたように見えます。半導体の開発は、年単位の時間がかかるのが一般的で、このような長期的な時間が必要で、しっかりと将来を見通せる戦略が重要になります。2020年にMacBook向けのApple Silicon M1の性能でそれに気づき、他社が慌てて追いつこうと思っても、2023年前半の時点で、対抗できる製品が他社から登場していないのがそれを裏付けています。

2012年に自社のマイクロアーキテクチャの開発に成功、その後、現在につながるTSMCで製造するApple A8が2014年にリリースされました。

前述したように、Appleは自社によるロジック半導体の設計を遅くとも2008年から加速させたと予想できますが、おそらく初代Appleの1970年代からCPUの選択はもちろん、設計、製造に関しては様々な検討をしていたのだと思われます。
実際に、Appleが買収したP.A. Semiの前身とも言えるDECの半導体部門でStrongARMをリリースしたのが1996年。その何年も前からARMでの開発は始めていたでしょう。Apple初のSoC Apple A4は2010年にリリースされていますが、その時点でアーキテクチャに採用しているARMに関しては、20年近いノウハウから設計されていたことになります。
このような長期的なノウハウを活かすことで開発が成功したとも言えます。

今後はどうなるのでしょうか。
製造自体もTSMCで行っていますが、今後もTSMCが常に業界最先端で居続けるわけでも無く、SamsungやIntelなどでの製造も長期的な視野で検討は続けているはずですし。アーキテクチャとしてARMを使い続けるのかもわからないです。

Mac関連の動向

1976年 MOS 6502を採用したApple Iをリリース
1983年 Motorola 68000を採用したLisaをリリース
1984年 Motorola 68000を採用したMacintosh 128Kをリリース
1994年 PowerPCへ移行
2006年 PowerPCからIntelへ移行
2020年 IntelからApple Siliconへ移行

Apple Silicon関連の動向

2010年 初めて自社で開発したApple A4をリリース
2012年 自社開発のマイクロアーキテクチャSwiftを採用したApple A6をリリース
2013年 10億トランジスタで64bitのApple A7をリリース
2014年 TSMCで製造するApple A8をリリース
2020年 Mac向けのApple M1をリリース

Appleの企業買収の主な動き

2008年 P.A. Semiを買収
2010年 Intrinsityを買収
2013年 Passif Semiconductorを買収 省電力
2015年 VocalIQを買収 音声関連
2015年 Perceptioを買収 機械学習関連
2017年 Dialog Semiconductorを買収 半導体開発
2019年 Intelの通信用半導体部門を買収

業界の関連動向

1992年 DEC Alpha 21064をリリース
1996年 DEC StrongARM SA-110をリリース
1997年 DECのStrongARM部門がIntelに売却
1998年 DECのAlphaをCompaqに売却
2001年 Alphaの資産をIntelに売却
2002年 HPがCompaqを買収
2002年 Intel StrongARMの後継としてXScale製品をリリース
2003年 DEC AlphaやStrongARMの開発者Daniel W. Dobberpuhl氏がP.A. Semiを設立
2006年 IntelがXScaleのPXA部門をMarvell Technology Groupに売却
2007年 Alphaシステムの販売終了
2008年 PowerVR開発のImagination TechnologiesとAppleがライセンス契約
2016年 AppleはImagination Technologiesの買収を計画するが失敗。その後、Imagination本社近くにAppleが新オフィスを設立

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