Apple M1から新しく変わるパソコンの世界

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Appleが独自開発のCPU、Apple SiliconをMacに使う事を正式に発表したのが2020年6月。開発者用に提供されていたMac miniベースのDeveloper Transition Kitに使われていたApple SiliconはiPad Proに使われていたA12Z。
Mac用のApple Siliconは、2020年に発表されるiPhone用のA14の強化版が搭載されるだろうと予想されていた。実際に発売するというMacに使われるApple SiliconのパフォーマンスはARM版Windowsの用に、最新のIntel CPUには及ばない程度の性能で、PCとしての機能も限定された物と予想していた方が多かったようだ。
しかしシングルスレッドでの性能では最新のIntel CPUより数割高く、PCとしての機能も最新の環境をほぼ全て取り込んだSoCを初期段階で投入した。

このAppleの一連の動きから、パソコン(PC)が新しく変わるきっかけになると言っても間違いは無い。

PCの垂直統合化

パソコンの初期は複数のメーカーが独自の設計、独自のOSを提供し、CPUも各社が争っていたが、CPUはインテルのx86系に統一され、パソコンのアーキテクチャも1990年前後にはIBMのPC/AT互換機に統一され、OSもMicrosoftのMS-DOSになり、その後Windowsへとほぼ統一された。このように各社が得意な分野で事業を進めるのが水平分業でPC業界の標準となっていた。
その流れに唯一逆らっていたのがAppleで、OSはともかくハードウェアも独自路線だったが、Windows系PCとほぼ同一ハードウェアになったのが2006年にIntel CPUへ移行したときから。それでもコンピュータの心臓部であるCPUはIntelから調達する必要があった。

PCのハードウェアはPC/AT互換機に統一されることで、業界全体が同じアーキテクチャに合わせた製品を提供できるようになる。接続規格も統一した物を利用出来るようになり、USBが生まれるなどし、コストを抑えられるようになり、ユーザーの利便性につながっていった。
この規格統一で、各社が得意分野を伸ばせるようになり、特定の分野についてはその会社に任せる水平分業が進んでいった。
その代表的なのがCPUのIntelとAMD、GPUのNVIDIAや旧ATI、OSのMicrosoftだ。これらの製品をうまく組み合わせたパソコンをパソコンメーカー各社が提供していた。

Appleは同社のPCであるMacBookシリーズなどで、OS以外は他社と同様に基本的にPCのアーキテクチャをそのまま使っていたが、スマートフォンでは異なっていた。
一般的にスマートフォンでも、CPUはCPUメーカー、OSはOSメーカーの物を使うのが一般的だ。Appleは2007年のiPhoneから3年後の2010年にはiPad、iPhoneで独自開発のCPU(SoC)を採用した。
他のスマートフォンメーカーと異なる垂直統合を既に実現していた。唯一の例外は、自社で半導体の製造もできるSamsungになる。

このiPhone、iPad向けのCPU、SoCである程度の目処が立ったからか、PCでも独自開発のCPUを使う事を早い時期から本格的にスタートさせていたいのだろう。
WindowsでApple M1と同じARM系のCPUが初めて使われたのはWindows RTが登場した2012年。公式にWindowsがARMに対応することを発表したのが2011年なので、Windows自体はAppleより9年も早く正式にARMの対応を表明しながら、ARM版Windowsの評価は芳しくない。

ARM版Windowsをよそ目にAppleは着実に開発を進め、PCとして遜色ないどころか大幅に上回るパフォーマンスを持ったApple M1採用のMacBookなどを2020年にリリース。

CPU、OS、PCを垂直統合する唯一のメーカーとなった。

他のメーカーの場合、Microsoftを除くとOSを自社開発するのは実質不可能。IntelとAMD以外が x86 CPUを開発するのは難しく、他のCPUの場合は出来ないことも無いが、数年単位で時間がかかるが、現時点で独自開発する利点はほとんど無い。
あるとすれば、MicrosoftがCPUを独自開発するとか、CPUメーカーを買収する、IntelとMicrosoftが統合するような場合だが、そんなことがあり得るのだろうか。
つまり、近い将来Appleに追従するメーカーは存在しない。(中国などの特殊な環境を除く)

垂直統合のその後

OS、PCに加えてCPUも自社開発できるようになれば、互換性を考慮することなく古い技術を捨て、最新技術の採用も従来以上にやりやすくなる。
特にAppleは従来から古いインターフェースから新しいインターフェースの導入は、ほぼ互換性を無視して進めており垂直統合を完成させ独自に様々な決定が出来るようになれば、今まで以上にこの動きが加速する可能性がある。

とはいえ、基本的な技術については開発コスト、利用するデバイスを考えれば業界標準を使いながら最新の規格等を真っ先に利用するような形になる可能性が高いだろう。
これがある程度進むと、一般的なPCのアーキテクチャとかなり異なったMacになっている可能性もある。

将来的には、CPUの命令セットアーキテクチャ (instruction set architecture, ISA)もApple独自の物になる可能性もあるが、そこまでになるまではそれなりの年数が必要になるだろう。